2−7 彼にとっての境界
ミオに押し込まれたエレベーターはゆっくりと下降していった。
シュンリは暗闇の中息をつきながら、貨物用のエレベーターなどに乗る事態に二度と遭遇しない事を祈った。
──いや、祈るべき事はこの場合、他にいくつもある。
先ほどまでの妙に高揚していた気分が急激に下がり、ぐっと眠気が押し寄せる。
側で少女がまだ息を切らせていた。
緊張感から一転、現在占める感覚は男の性。
少女の柔らかな胸が腕に密着していた。
ほのかな石鹸の香り。
それは目覚めた時に嗅いだ部屋のものと同じだった。
「無茶はしないで……お願い」
ミオは鼻を啜りながらしがみ付いている。
──恋人「ミン」との生活は、無臭。
何もかもが淡白になり、徐々に色も失って行った。
「あのね、私、子どもの頃これに乗って出られなくなった事があるんだ」
暗闇の中、ミオが呼吸も整わないまま話始める。
「中からボタンを押せばよかったんだけど真っ暗でわからなくて……。その時代から
シェルターの人たちは死んでいる可能性もあるって話はあった。開けてみないうちはわからない。
中で眠っている人達だって、目覚めてみるまで自分が生きているか死んでいるかわからない」
ミオは腕から離れ、ゴシゴシと目を擦った。
「男性棟の人たちはあなたの言うように殆どがたすからなかった……。
きっと、この長い時の中、蘇生不可能な状態に身体が変化したっていう瞬間があったんだよね。
その瞬間がその人たちの死って事だよね……。だけど、当の本人達は自分が死んだことなんて
気づかないし……私たちが開けて確認して始めて、それが現実になった……
その間彼らの心は、魂はどこにいたのかな。そんなものは、やっぱり無いのかな……真っ暗なこの中で色々考えて怖くなったんだ」
このような物言いには心当たりがある。
やはり、ミンだ。
ミンはよく、異母兄の影響で哲学や心の所在といった話題をよく持ちかけてきた。
まともに付き合った記憶は無い。
話そうと思えばいくらでも付き合う事は出来ただろうが、一緒に暮らし始めるようになったころから
そんな事で気をつなぎ止めようとする努力も、真の意味での興味も感じなくなった。
手に入ってしまえば、大体そんなもの。
あとは惰性。
同じ日々が繰り返されるだけだ。
と、エレベーターの減速を感じ、物思いは唐突に途切れた。
「これはどこに着くんですか」
「倉庫だよ。シェルターの一番下層に着くの。オートミールとか、缶詰が沢山ある」
「安全ですか?」
「わからない……。崩れそうな場所もあって危なくて滅多に行かないんだ」
扉が開く。
ミオに続いて降りるとそこには天井の高い、地下とは思えない空間が広がっていた。
コンテナや大量の木製の箱が山積みにされ、天井から吊るされたハロゲンランプが
頼りなさげに点滅し明るさをどうにか保っている。
長い間放置されていたのか、当たりは埃っぽく湿った木箱の匂いで満ちていた。
食料品の名前が書かれた木箱はどれも朽ち始めている。
全て備蓄だろう。
一般的なシェルターの備蓄量がどうかは知らないが、ここにあるのは相当な量だ。
至る所にフックのついたワイヤーが吊り下げられ、コンテナを出し入れしていた様子がある。
「……内線があるんだけど、確かこの先なんだよね」
と、言いながらミオは箱から一つ缶詰を取り出した。
「レンズ豆のパテ! すごい、30年前に製造されて10年前に賞味期限が切れてるみたい……。
……まだ食べられると思う? やっぱ無理かな。作ってるのは工場だし、
缶詰っていけそうなイメージがあるんだけど」
「150年前の肉が生きているんだから大丈夫でしょう」
彼がそう答えるとミオは口元に手を添え小さく笑った。
「古代人ってみんなそんな冗談を言うの? じゃあ、これ終わったらちょっと食べてみない?
お茶もあるしピクニックにいきたいな」
そうですね、と簡単に答えシュンリは山積みの木箱にもたれかかった。
薄暗い所為もあり、ますます瞼が重くなっている。
「そこ、木が腐ってるかも。あんまり押さない方がいいよ」
ミオが心配そうに覗き込んでくる。
「しんどいの? ……」
視線は合わせず、彼女の全身に目を向ける。
彼女の服にも少々血の付着があった。
だが、擦り傷以外の怪我は無さそうだ。
自分もこの返り血の割には目立った傷は無い。
彼女はとびきり器量がいいわけではないが、大きな紫がかった瞳の、どこか愛嬌のある顔をしていた。
いくつなのかはしらないが、見た目的には18そこそこといったところだ。
精神年齢を考えると印象としてはそれよりも低めだ。
そして。
先程まで密着していた豊満な胸。
不意に浮かぶ好奇心。
地上で会った女性の「モドキ」という言葉を思い出す。
ミオというこの少女の何がどう、モドキなのか。
あの口ぶりでは、現代では人造人間が沢山居るようだが皆この少女と同じような風体なのか。
あどけなさの残る顔つきは、そこらへんの少女のそれと相違は無い。
個性なのか? それとも望まれて造られたものなのか?
「私、大丈夫だよ、心配しないで。どこも怪我してないから。それより、あなたは?」
ミオは胸元を隠して照れた表情を作った。
──観察しすぎたようだ。
「手首を痛めたみたいです。さっきのゴリラゾンビに拳銃を弾かれた時だと思う……それくらいです」
「本当? 見せて」
ミオは両手でシュンリの手を取った。
「────」
そこで彼女の口から聞きなれない語が飛び出した。
思わず疑問の表情を向ける。
「ん?」
「俺の時代には無いイントネーションと単語だったので、何かと」
ミオは二回ほど瞬きをした。
「そうだったんだ。ううん、手当てするよって言ったの。そのおまじないの言葉なの」
そう言って、ミオはただシュンリの手を取った。
彼女の口調は一見乱暴に聞こえる。
だが、おそらくこれは言葉のイントネーションや略仕方のせいだ。
150年もの時の流れの中で消えた言葉や新しく生まれた言葉があるのだろう。
彼女と話をしていると、この時代では過去ほどの言語は無いのではないかと感じる。
それが彼女から感じる幼さの理由だろうか。
そうだとするなら、自分の口調は必要以上に丁寧に聞こえているかもしれない。
だが、通じないほどでもないし大きな壁になるような不便さは感じない。
ミオは時々よくわからない単語を発したが、単語の略式だろうという事は推測と文脈で補えた。
こちらもそれは同様。
言語の壁は、殆ど生じて居なかった。
山岳信仰も生き残り、基本的なコーデリテ人の気質や風土もそれほど変化は無いように思える。
むしろ文明が後退しているくらいだ。
✳
……彼女はまだ念じ続けていた。
──やれやれ、どの時代も女は変わらないな。
「もう平気ですよ」
いい加減鬱陶しくなりシュンリは腕を動かした。
ミオが顔を上げる。
ミオは真っ赤になり、両手を上げて後ろに下がった。
「ごめんっ。変な事だった? これ」
ミオは真っ赤になった顔を両手で覆った。
「いや……そういうわけではないけど、そんな事をしている場合かと」
「古代人はやらないんだね、手当て」
「はい?」
「痛い場所に別の人が手を当てて元気を送ると、痛くなくなるんだよ」
シュンリは流石に飽きれて、「はあ」と言った。
「こ、これって、古代人にとって失礼な所作なのですかな、気をつけます、ごめんなさいです」
丁寧語を使い慣れないのか、彼女は舌をもつれさせながら言った。
「長い間俺があなたの家に居たから距離を近く感じるのでしょう。気にしていません」
「え、うん……?」
そこでシュンリは話を切ろうと思った。
「あっ、あのね」
ミオが思いついたように続けた。
「私、小さい頃からあの近くに住んで居たんですけど、時々、ヤールさんとここに来ていたんだ。
調査の人たちが、みんな死んでるかもって言っても私には時々光が見えたの。だから絶対誰か
目覚めることは確信していたし、みんなに親しみを感じていたんだ。本当は直接肌に触れないと
効果は無いんだけど、装置の前で一人一人に手当てをして、元気に復活できるよう、
私の元気をあげたりしていたんだよ。シュンリがうちに来てからは、シュンリばっかりにしていたけどね。
元気をあげると、相手の痛みがじんわりと自分に伝わってくるの。それで私、きっと、余計に
馴れ馴れしくなっちゃったのかもね」
語り終わって、ミオは理解を求めてくるかのような目を向けてきた。
「そうなんですか」
「だからって、急に丁寧な感じにするのは変だよねっ……」
「普段どおりにして下さい。この時代に合わせていかないといけないのは俺の方なんだから。
それに、痛かった手も、なんだか本当に気にならなくなってきた……気がするから」
「よかった! 古代人には効かないのかとおもっちゃたよ」
彼女の物言いは迷信を信じているというより、その力がある事は当然だ、と言っているかの様子だった。
しかしどう考えてもミンが時々語っていた心がどうとかいう話以上にスピリチュアルなものだ。
現代人全員がこうなのだろうか。
げんなりしつつもシュンリは痛みが和らいでいるのを自覚した。
気休め程度にはなるのだろう。
「シュンリは、何かある? 他に変だなって思った事とか、自分の体調の話でもいいよ」
「……そうだな……」
シュンリは、今日目覚めた時に感じた感覚を思い出した。
彼女に告げた所で何もならない戯言だが。
「今、不思議な事に二つの感覚が入り混じっている。俺にとっての昨日はあなたにとって
150年前だ。だけど、本当にそんな長い年月が経ったと同時にわかる。
これは今日目が覚めてすぐに悟った事なんだけど」
「二つの感覚……?」
ミオは首を傾げた。
「ここは150年後の世界だと話を聞いて頭でわかるというわけではなく、感覚としてわかるんだ。
自分が生きていた世界で感じてきたものと180度変わったから身体がそう思い込むのかとも思ったが
そうではない。長い年月、凍っていた間も身体の機能の一部は凍らずに時を刻んで居たんだと思う。
何年も使っていないパソコンの電源を入れた時、時間が正しく表示される原理と似ている……」
「え?」
ミオが大きな目をぱちくりさせる。
伝わりにくい例えだったのだろう。
「とにかく、筆舌に尽くしがたいがそんな感覚なんです。さっき、凍っている間の心の所在みたいな話をしていたけど、
精神面では間違いなく死んでいるのと同じ状態だったと思う。意識も無意識も無い。消えていた。
肉体が復活して動けるようになったから作動し始めただけだと俺は思っています」
ミオの瞳は宝物を見つけたように丸くなった。
「それすごいと思う。ヤールさんに本を書いてもらわないと。あとは何かある?」
問われて彼は再び考える。
目覚めの光明を疑う事があった。
彼の子供時分から血眼になって物にしようと努力してきたある領域の思考について。
それについて今まで獲得してきた方法で筋道を追おうとすると、脳に高い負荷がかかる感じがあった。
導きだせなくなるわけではないし思考がまとまらなくなるわけでもない。
それがなんなのかは、漠然とした感覚としてあるだけなので、今後どういった支障を生むのかは検討がつかない。
脳の一部が、どこかしら壊れてしまったのだろうという予感を感じてはいる。
それ故に、代償が起きているのか。
先ほどから頭を擡げる不調とも言い難い、「予感」。
──この状況にはなんの足しにもならない。
シュンリは一通り考え、「眠気くらいです」と答えた。
眠気。
そう、一番の問題は眠気についてだ。
今までに感じたことのない類の眠気。
身体を動かしている間は平気だが、一度止まると瞼が降りてくる。
この瞬間も。
「そうだよね、急に動いて疲れてるよね」
ミオは心配そうな、申し訳なさそうな顔をした。
それを見て、彼は思った。
人間だろうが愛玩具だろうが関係ない。
それがゾンビだろうとも。
武器を持った自分と、ゾンビ。
時が流れようとも、人類はそう変わらない。
人間らしさは姿形により決められるものではない。
「それ」は、生まれたときに殆どの人間に標準装備されている。
可視化出来ない心の機能により決まるのだ。
個性でも造られたものだとしても、彼女には「ある」ことが簡単に分かる。
──全く、面の皮一枚だ。
「あっちはビスケットの缶が沢山あるよ。国のものだから、基本私たちは手を出せないんだけどね……でも賞味期限切れてるし……」
少し歩くと右手にセンターラインの引かれた通路が現れた。
通路の先は倉庫の壁へと続いている。
こうして見るとかなり奥行きがあり広い。
コンテナの中の殆どは空だと言うが、改めてその計画が長期的なものだったという事を感じる。
もちろん、150年前の時点でも冷凍睡眠後にしばらくそこで生活をする事を見越して倉庫は存在したが、
ここまでの容量では無かった。
一度崩して建て増し建て増しやってきたのだろう。
戦争はそれほど長期化したのだ。
どうやら、自分たちが降りてきた貨物用のエレベーターは倉庫の端の角にあったらしい。
少し歩いていくと、これまでと違った見通しの良い通路が現れた。
機材やコンテナを通すためなのだろうが、その通路には5メートル程度の幅があった。
道の左右にコンテナや木箱が殆どが並べられ、どの荷物も高さは一定に揃えられている。
その通路には所々脇道があり、物資の区画整理がされている様子だった。
「そっちの脇道は、行き止まりですか?」
ミオに確認する。
「行き止まりのところもあれば、またこの中央に通じている所もあったと思う。どうする?」
「行き止まりで大勢に追い詰められたら流石になぶり殺しにされるだろう」
「……私、わからない……」
「じゃあ、この目立つ通路を突っ切るしかないな。もしくは、上に登れたらいいんですが」
倉庫には左右に中二階の簡単な足場が付いていた。
見通しがきかない上にあちこち路地がある倉庫内は、万が一ゾンビ達が入り込んでいたら危険だ。
それよりかは少々目立ってもあそこを全力で突っ切る方が安全に思える。
「私もそれがいいと思う。たしか、そこからならミンさん達が眠っているエリアに行ける」
「そうか。なら、やっぱりここを通るしかないか……」
コンテナの影から動く者が現れた。
あさぐろい肌。
人型「ゾンビ」だ。
襲ってくるでもなくじっとこちらの様子を観察している。
談話をしつつも周囲への警戒は怠っていた訳ではなかった。
だが、向こうはとっくにこちらに気づいた上で見つからないよう様子を窺っていたのかもしれない。
いつでも襲ってこれたというわけだ。
なぜそれをしなかったのか。
そばにいたミオが驚いて後ずさりする。
ゾンビが動いたのはその時だった。
相手の力量をはかる観察対象から、弱いとみて攻撃対象に変わった。
その空気のような相手の挙動の変化を本能で感じる程度に自分も「動物」だ。
敵意が無いと言うことを示すことは出来ない。
自分たちにはこの一本道を突き進むしかないのだから。
シュンリはバットを構え、相手を見据えた。
「また、戦うの……?」
ミオが言いすくむ。
ゾンビは僅かに身を屈めた姿勢のまま、シュンリの方を見ている。
視線はこちらだが、目は合っていない。
──何を見ている?
こちらを窺っていたゾンビの視線がミオへ移った。
襲う方を選んでいるのか。
すると、荷物の影からさらに2体の人型ゾンビが現れ、何やら彼らと目配せを始めた。
リーダー格のようなゾンビが後ろに下がると、一番小柄な者がのたのたと前へ出てきた。
甘く見られた物だが、奴等はやる気だ。
視線を正面に保ったままミオに聞く。
「副管理人さん、ちょっと出口からは遠のくが、さっきの場所まであいつらを誘いましょう。
あそこにはゾンビは居なかったし狭い通路なら、一匹ずつ相手に出来るから」
一体のゾンビが走り迫ってくる。
狙いはミオの方だ。
彼女の返事を聞き終わる前に、シュンリは動いていた。
*
一体目の敵は釘バットのスイングを受け簡単に倒れた。
釘部分がゾンビの腹に食い込んだまま抜けない。
狙わないように気をつけていたのだが。
シュンリはやむなくバットを捨てると2体目のゾンビに向きを変えた。
相手の腕を取り後ろ手に締め、そのまま体重をかけて押し倒す。
そのまま首を締め上げると意外な程あっけなく骨が折れる感触が伝わってきた。
手加減の力加減のほんの先に、生命の終わりがあったという事を改めて実感する。
が、そんな感慨も一瞬のうちに冷めやり、シュンリは立ち上がった。
ゾンビの力は大したことが無いのだと、わかってしまった。
力の程度より、弱さの要となるのがその力の使い方だ。
安物の、機能が限られたロボットのように単調なのだ。
あのゴリラゾンビのような圧倒的なパワーがあれば別だっただろうが。
「リーダーが出てこないな……」
彼は辺りを見まわし呟く。
辺りに影は無かった。
シュンリは腹に釘バットの刺さったままのゾンビに歩み寄り少し屈んだ。
そいつにはまだ息がある。
「何をするの……?」
ミオが足を内股に震えさせながら後退する。
「回りを監視しておいて下さい。もう一匹居るはずです」
シュンリはバットを取り出そうと刺さったバットをねじくり回した。
その度にドロッとした液体が溢れ、ゾンビは悲鳴を上げた。
ミオが口を抑える。
「抜けないなあ……」
シュンリはゾンビの腹を片足で踏み、バットから無理やり引き剥がすと息もつかず振り下ろしとどめをさした。
血飛沫があたり一面を汚す。
「しかしここにもゾンビが居るとは。ここに来る方法はいくつありますか?」
が、ミオからの返答はなかった。
「副管理人さん……」
「……え、何か言った?」
「ゾンビはどうやってここに来たのか聞きました」
問われ彼女が考えはじめる。
「エレベーターも階段もカードキーが無いと使えないはず……だからわからない」
「そのどちらかを使うしかない。俺たちも同じだ」
「でも私……」
彼女の顔は怯えきっていた。
シュンリは苦笑した。
「あなたはこんな生物を生み出すに至った人間側の事情以上に、俺が怖いんでしょう」
ミオは青ざめたまま首を横に振った。
「違うよシュンリ……。シュンリの事は怖くないよっ。だから、私が無理そうだと思ったら、
私なんて捨てていいから……。大事なのはあなたとミンさん達が助かることだから……。私みたいなのは
吐き捨てるほど居る……。でも、あなたは一人しか居ないから死んじゃ駄目……」
ミオは声を震わせ言った。
そして悟る。
彼女が「モドキ」と呼ばれる理由を。
ミオはポケットからいそいそとカードキーを出し、シュンリに差し出した。
差し出す手は震えていた。
「あなたが持っていた方が、いいんじゃないかな……」
カードキーを受け取りかけた時、前方の影が動いた。
息を吐きながらシュンリは立ち上がった。
前方、後方から2体ずつゾンビ達が歩み寄ってきている。
「後ろにも居る、諦めるくらいなら一匹くらい任せますよ。スプレーもまだ使えるでしょう」
背後に揺れる影。
ミオがゆっくり振り返えると、近くに浅黒い顔が迫っているところだった。
「うっ」
ミオは腰からナイフを出し、構えの姿勢をとった。
それに怯むこと無くゾンビは近寄ってくる。