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    2−9 実験の報酬

     

     

     

     

    2−9 実験の報酬

     

     


    「大丈夫ですか副管理人さん」


    「えっ」

     

    「目も口も開いていたけど2分程度全く反応が無かった」

     あちこちを血で汚した男を目の前に、一瞬で現実に引き戻される。

     出来の悪い悪夢のような状況

     今はそれが自分の現実だった。

     

    「シュンリ……」

     


     吐き気と嫌悪感が胸を襲い、冷や汗が出てくる。

     側に転がっているのは、ゾンビだった。


     本当にゾンビだろうか。


     彼らの実態は不明だがシュンリもそう呼んでいるのだからこの場はゾンビでいい。

     
     ……。

     

    「こいつを見てください」

     

     胃のむかつきのおさまらないミオのことなどお構いなしに、

    シュンリは足元に倒れているそいつの身体を仰向けに転がした。

     胸の刺傷からまだドクドクと血が流れている。

    「こいつら、さっきより姿が人間に近づいている……。それともう一つ、面白いことを発見したんだ」


     そういうと彼はゾンビの身体にナイフをたて、その表皮を剥いだのだ。


    「なぜかこの下は人間と同じような肌になっているんですよ。で、今下まで剥いてみようと

    したんだが、股間あたりの皮膚は異様に硬くて難しい。かと思えば別の奴はあっさり刃が

    通ったりと個体差があるようなんです。ちなみに、その分厚い皮の下には生殖器の原型の

    ようなモノが一応付いているようです」

     ナイフをゾンビの目の部分に添え、シュンリは少し笑った。

    「昔見た宇宙人の解剖実験みたいだ。作り物だけど、モノクロ映像なのが妙に生々しくて」

     彼は何をするか予告をしなかったが、ミオは目を逸らした。


    「あ、目はそこまで硬くない。ここから脳を破壊したらすぐやれるかもしれないな。

    それにしても手足が長い。関節技は効くようだが。動きはそこまで早くなかったな。

    つかみ合った時のパワーは普通の、運動していない男程度に感じた。何らかの方法で仲間と敵を

    見分けて襲ってくる。それくらいの知能はあるが、ざっと見たところ犬以下だ。だからあんたもコツさえ

    わかれば倒せる。服の代わりに少々皮膚が分厚いが、こいつらの強度は人間と大差は無い……」

     


     人間……。


     ミオは身震いした。


    「これからもっと人間に近いような奴が現れて……言葉を喋ったりしたら、どうすればいいの……」


    「どうするも何も襲ってきたら倒す。他に何を判断するんです?」


     愚問だった。


     シュンリはこれまでの事で勢いがついている。


     表情に全く変化は現れていないが。

    「だって、今の奴だって、苦しそうにしてた……し」

     


    「見た目が人間だったら倒すのを躊躇うというわけか。なら、あなたはあなたの価値観に従えばいいんじゃないですか。

    俺は相手がゾンビだろうがなかろうが、自分の命を守ることに関係ないと思っています」


     ミオは何も言い返さなかった。


    「ヤールさんにあなたを死なせないようにとも言われているから、その時は判断してください。俺も無駄に

    戦って体力を消費する事は賢くないと思うので」


     シュンリは見つけた布で手を拭きながらしゃがみ込んだ。

     先ほどのゾンビを観察している。

     


    「恐怖は、生きていく上で大切な反応だ。未知な物は怖い。敵の事を知らないから怖いんです。

    だけどどの程度なのか調べることを怠らなければ、思わぬ所で役に立ったりする。


    突発的な衝動や好奇心も窮地に陥ったとき知識に救われる事もあるから──……

    俺はそういう努力や実験が昔から好きなんです」

     


     ミオが黙っていると彼は苦笑した。

     


    「これだけは俺たちの約束にしておきましょう。大勢に囲まれたら、俺にナイフを回してください。

    バットは一見リーチもあって殺傷力も強いから使いたくもなるが、遠心力が無ければ結局大した

    ダメージを与えられない、おまけに釘が肉にめり込んで駄目だ。ナイフで身体ごと体当たりした

    方が威力もスピードも確実だ。それはあなたもさっき感じたでしょう。この場合、あちこち物が多くて

    死角が多い。いくらのろまだからといって、四方八方から来られたらそれはもう数の暴力。やられるしかないだろう。

    なのでやっぱりナイフの方がいい。1対1で距離があるならバットを選ぶ。そこは臨機応変に回してください」

     

         「さっきのは、私に教えるためだったの?」


    「あなただって生き残る確率は高い方がいいでしょう。さっきも話したけど、

    俺は体力の限界です。もうあなたをかばえる自信は無いんです」

     

     やっぱり、彼はおかしいことは言っていない。

     むしろ、おかしいのはこの状況で自分以外の心配をしてしまった自分なのかもしれない。

     自分の中に、まだ諦めきれない気持ちが残っている。

     今日のこの日まで、冷凍睡眠者たちに思いを込めながら守ってきたのだ。

     ミオは唇を噛んだ。

     それを、捨てなくては生き残れない。

       これまで考えたこともないような状況の中で……。

     多分、次はない。

     彼はもう助けてくれないだろう。

     この状況下だからだ。


     彼が自分やヤールと対極の性質という事はなんとなくわかる。


     もし自分に彼と同じ力が備わっていたとしても、こうは動けない。

     だが、あくまで自分の恋人を救うための、この状況だ。

     自分だって中で眠っているのがゾンビだとわかっていたならシェルターに足しげく通って目覚めを願うことなんてしなかった。

     正直、もう何を信じていいのかわからない。

     赤黒く染まる彼は、もはや喋るゾンビだ。


     気が遠くなる。

     今朝まで穏やかに寝息をたてていた彼とは違うし、自分が想像で作り上げていた冷凍睡眠者たちと彼らはもう別物だ。

     何を信じて何を選ぶのか。

     

     ──この先に起こることを確かめるしかないじゃない。

       違う、私が怖いのは、シュンリじゃない。

     

     今、自分はどんな顔で彼を見ているだろう。

       私は 今朝の今までシュンリを大事に思っていた。

      まるで作り物、陶器で出来た人形のようにきれいで、尊い存在だと。

      この美しい人はどんな声で喋って、笑うのか……。

     ウイスキー工場の再稼働が夢だと伝えたら、どんな風に言ってくれるだろうと……。

     

     この想いをあてにすることは間違いだろうか。

     

     ーーその時、硬貨が落ちる音がした。


    「あ、すみません」

     彼はそれを拾った。

    「俺が眠っていた部屋にコインがあったので、拝借しました。困ったときに重宝するんで」

    「……?」

    「決めておくんです。裏が出た時の約束と、表が出た時の約束を。

    ここぞという時に投げれば、進路が見えてくる」

     シュンリはポケットにコインをしまった。

    「あの、それって……」

     

     ミオが言いかけた時、どこかから「チン」という音が聞こえた。

     その後に戸の開閉音。

     二人は音の聞こえた方向を瞬時に見た。

     

    「エレベーターで誰かが降りて来た……?」

    「人、だといいですがね」

     彼はミオを改めて見下ろした。

    「……俺はこの先、生き残るために、一人より二人の方がマシだと思っているけど

    あなたが諦めるというのなら、カードキーは預かります」


     ミオは唾を飲んだ。


     蛇に睨まれたような妙な圧迫感に押されスカートのポケットに手を伸ばす。


     先ほど自分はいいからと渡そうとしたのはミオ自身だ。


     ぼんやりながらシュンリの話を聞いていたが、彼が語ろうとした意図はわからなかった。


     この場にさえそぐわない何かしらの違和感がある。


     その理由もはっきりしないうちにカードキーが渡せるのか。

     確めるしかない。

     もともとは夢だ。

     夢のために。

     自分が生きて、かなえるためだ。

     


    「この後も私は生きていたい。みんなでピクニックも行きたいしキャンプファイアーもしたい。

    ウイスキー工場を再稼働させるのが、私の夢なの」

     ミオは立ち上がった。

     

     ──ミオが静かな怒気を上げたその時だった。


       内線が設置された場所へ続く進路から、ぬっと影が現れた。

     


     人型ゾンビだ。


     照明の下まで、のたのた歩いてくると、その姿がくっきりと目にとれた。


     生気を失った土色の肌に、まるで彫刻像のような筋肉質な身体。


     その姿は昏睡状態の間に痩せて衰えてしまう前のシュンリと心なしか似ていた。


     だが、顔の部分はまるで分厚い仮面のような──皮膚が剥がれたかのような赤い肉が露出して、他のゾンビと同様醜かった。

     


    「他のと体格が違う……こいつら、もしかしてエレベーターで降りてきたの?」

    「……違う。あいつはさっき一瞬見えたリーダーみたいなやつだ。降りてきた奴が居るとするなら

    あいつとは別だと思います」


     シュンリが答える。


    「降りてきたのは人間かもしれないよね! 目を覚ました人かもしれないし、

    トコリから助けが来たのかも!」


     ミオは自分でもおかしなテンションになっている事を自覚しつつも希望が沸きあがるのを感じた。


     まるで根拠は無いが、そう思うことでしか気力が保てそうに無いのだ。


     シュンリにとっても自分が気弱になってヘナヘナになられるよりはマシだろう。

     


    「しかしこいつはこれまでの奴と比べると少し賢そうだ。まわりに他のゾンビは見えない。なら一発で倒さないと」

     


     シュンリはバットを構えた。


     しかし、相手はこちらの様子をうかがうばかりでなかなか襲ってこない。


     去就に迷っていてもしかたがない。

     こちらには時間が無いのだから。

     

     シュンリは走り出した。


     それに反応して、ゾンビがゆっくりとしゃがみこむ。

     


    「そんな!」


     ミオは思わず叫んだ。


     シュンリが釘バットをスイングした時にはゾンビの姿は無かった。


     発達した筋。


     それをバネに高く飛び跳ねたのだ。


     しなやかに空中で身を翻し天井の梁に両足を付き、槍のように突っ込んでいく。


     シュンリはすぐさま上を見上げるとバットを捨て飛びのいた。


     ゾンビは軽々と着地し、体勢を整え彼に迫っていく。


     人間を遥かにしのぐ筋力。


     バットを持ったまま襲われたら押し返されて傷を追う、その判断だったのだろうが丸腰で太刀打ちできる相手ではない。


     今までのやつとは明らかに違う。


     すぐに掴み合いがはじまった。


     が、力の差は歴然だった。


     シュンリはネコのように首を捕まれコンテナに身体を打ち付けられた。


     倉庫全体に衝撃音が響く。


     いくらなんでもひとたまりのない一撃だ。


     ゾンビはすぐさま彼に背を向け、ゆらりと向き直りミオと目線を合わせてきた。


     シュンリは意識は保っていたようで、顔面に怒りを滲ませながら立ち上がった。

     右肩が異様に落ちている。

     


     


     シュンリは肩の痛みに顔を歪めた。


     その痛みに身に覚えがあった。

     脱臼の痛みだった。

     


     一方のゾンビはというと震えるミオの前で立ち尽くしていた。


     まるで隙だらけだ。


     シュンリは左手に小型ナイフを握った。


     肩の痛みと整わない呼吸に眩暈がする。

     だが、痛みが無かったらこのまま意識は薄らいでいただろう。

     目眩を感じる分いくらかマシだ。


     呼吸を整えている時間は無い。


     最後の一撃分の酸素とエネルギーが出せればいい。

     幸い、彼は幼い時に利き手矯正をした後も頻繁に左手を使って生活していた。

     ナイフを握るのが左手だろうと大した問題はない。

     


     そして、狙うべきはどう見てもあそこだ。


     人間と大して機構が違わないのなら。


     実験の甲斐はあった。

     


     ──掴みかかって、首にナイフを突き刺す。

     


     シュンリは深々と呼吸をした後、息を止めた。


     ゆっくりと近づき首筋を狙うのだ。

     ミオの視界に入らないように、ゾンビの背中ぴったりに忍びっていく。

     と、怯えたミオがわずかによろけた。

     

     彼女とほんの一瞬目が合う。


     彼女の紫がかった瞳が、僅かに大きくなった。


     そのゆらめきとゾンビがこちらを振り返るのはほぼ同時の出来事だった。


     彼女はすぐに視線を外したが、一瞬の揺らぎをゾンビは見逃さなかったのだ。


       断絶していた意識の糸が再び彼へ向かって紡ぎ出される。


     が、持てる力全て絞って振り下ろされたナイフは、既にゾンビの首筋に突き刺さっていた。

     


     ──浅い。凄く硬い!

     


     ゾンビの身体は鉄の塊のように硬く、それでいてしなやかだった。

     このゾンビは首の部分も強化されていたのだろう。

     もしもナイフが小型の物ではなく、大型のサバイバルナイフだったのなら。

     もしも肩も外れてなどいなくて、両手でこのナイフが振り下ろすことが出来ていれば。

        深く潜り込んだナイフはゾンビの頚動脈を破り、結果は異なっていたかもしれない。

     これもさっきの実験でわかったことだが、やつらの弱点と言える頚動脈は人間よりも深い位置に

    あった。

        今与えた一撃では深さが足りなかったのだ。

     


     失敗だ。

     


     ゾンビはひと声も上げず、距離をとりながら反撃の姿勢をとった。

     ナイフは首筋に刺さったままだが、大した出血もダメージも与えられていない。


     シュンリは指先から全ての力が抜け落ちそうになるのを堪え拳を握り直した。

     

     もう武器はない。


     関節技もあの力の前にすぐ外されるだろう。


     そもそも肩が外れた状態ではどうしようもない。


     かといってこの身体を武器にするしかもう道はないし考えつかない。

     

     ――いや、あるじゃないか。

     


     人間の身体で一番力を生み出せる場所、それは顎だ。


     攻撃の中心が噛みつきであるゾンビの方が余程賢かった。


     自分が今までそれを、女や子供の取る手段だと思い込み選択肢に入れなかっただけの事。


     生きる可能性が高い方に賭ける。


     決まりだ。

     

     ──頸動脈ごと、食いちぎってやる。

     


     次に向こうが襲ってきたら、その一撃目さえどうにか躱すか、しのげばいい。


     今度は肩の関節が外れるくらいでは終わらないだろうが。


     シュンリは深呼吸すると、コンテナに身体をぶつけて外れた肩を直した。

     思った以上の痛みに、呻く。


     かくして肩は上手くはまったようだが、暫くは思うように動かせなさそうだ。


     そしてなによりこのゾンビを相手に生き残れる確率は冷静に考えると、どんなに甘く見積もっても現実味がない。


     ここで自分とあの少女は終わる。


     彼の意識に諦めが登った時、ゾンビの視線が泳いだ。

     


     脇に詰まれていた木箱が倒れ、箱の中から大量の瓶詰めが転がり落ちてきた。

     


    「こっち!」


     ミオだ。


     ミオはシュンリの手を取ると走り出した。


    「ここ、一番古い物資が置いてある区画で、木が脆くなっていて、手前から突けば、そっちに倒れると思ったの」


     息を切らし短く区切りながら彼女が言う。


    「あ、あそこ!」


     重厚な鉄の扉の横にカードリーダーの緑色の光が点灯しているのが見える。


     あと20メートル。


     背後から咆哮が聞こえた。


    「来てる!?」


     ミオが叫ぶ。


     シュンリは後ろを振り返った。

     確認するまでもなかった。

     ゾンビは瓶詰を誇りのように振り払い、追いかけてきている。


     あと10メートル。


     悪夢のような距離。

     


     天井の吊り下げランプが大きく揺らめく。

     

     ドン……。

     倉庫全体に音が響く。

     


     二人は立ち止まった。

     ゾンビは二人のすぐ目の前で四つん這いになっている。

     瓶詰が倒れた位置から飛び上がり、頭上を飛び越え四点着地したのだ。

     吊り下げランプが大きく揺れ、ストロボでもたいたようにチカチカと明滅し始めた。

     まるでコマ送りのように少しずつゆっくりとゾンビが立ち上がっていく。

     


    「何か無いか? バット以外の物……」


     ミオは腰に付けていた予備のナイフを取り出し、シュンリに渡した。


    「いや──。確かに、さっき教えたな、……そうなんだが、あんた、スプレーとか持っていただろ」


    「ごめんなさっ……」


     ミオは慌ててスプレーを差し出すが、もう遅かった。


     もうゾンビはこちらに向かおうとしていた。

     仕方なしに攻撃の姿勢をとっていたシュンリの腕とスプレー缶がぶつかり、弾き飛ばされる。


     今度はゾンビの方から向かってきていた。


     シュンリはミオから受け取ったナイフを破れかぶれにゾンビに振り下ろした。


     それを当然のように腕で受け止められる。

     その態勢のまま力に押し返され、鉄製のコンテナに身体をおしつけられていく。


     シュンリの顔にじわじわとゾンビが近づいていく。

     もう彼に力はなかった。

     シュンリが握っていたナイフはゾンビに捕まれ、彼自身の首筋にぐいぐいと動かされていく。


     ナイフの腹がシュンリの首にピタリと当てられた。


     そしてゾンビは力を掛けたり抜いたりと何かを確かめるように動かし始めたのだ。


     これだけの力があれば、即座に首をへし折るくらい造作ない事のはず。

     今度はこちらが実験されている。


     そう思っていたのはつかの間。


     遊びに見切りをつけたように押し付ける力を強め、ナイフの柄でシュンリの首を圧迫し始めた。

       殺す気だ。

     


     

     


    「やめてっ」

     


     ミオは意を決する間もなく釘バットをゾンビの頭に振り下ろした。


     ガイン! と、固いものに打ち付けたかのような感覚がビリビリと腕に伝わる。


     ゆっくりとゾンビの顔がこちらを向く。


     ゾンビはシュンリの襟元を掴み玩具のように投げ捨てた。

     

    「あぁ、シュンリ!」

     


     鉄製のコンテナに全身を打ち付けられ、彼のうめき声と罵る言葉が聞こえた。

     とりあえず、生きている。

     だが問題はこちらだった。


     両手で構えたバットがもう重くなってくる。


     ゾンビはノタノタと近づき、そっとミオからバットを奪い地面に転がした。


     そして、ゆっくりと顔を近づけてくる。


     ミオは目を閉じて痛みを待った。


     が、予期していた痛みとは無関係な鼻息が聞こえ始めた。


     先ほど、シュンリと出会う前に遭遇した弱ゾンビと同じで、なかなか襲ってこない。


     どこも触れられているわけではないが首筋あたりにゾンビの熱を感じる。

     


     ──においを嗅がれている!?

     


     うっすらと目を開けると、ゾンビは背後に回っていた。


     どうやら同じ挙動を繰り替えしているようだ。


     一気に鳥肌が立ち、よろけるままに二三歩進む。


     足の力を失い地面に倒れこみそうになると、ゾンビはミオの身体を介助しながら優しく座らせた。


     何もしてこない。


     貪るように嗅ぐでも脅かすでもなく。


     まるでの赤子ような扱いだ。


     凍りつきそうになっていた心の中心が、なぜか、溶けていく。


     心が麻痺しているのかわからないが、唐突にそのような気持ちは失われていった。

     


    「ごめんなさ──」

     


     ミオがそんな事を言いかけた時、背後で影が動いた。


     シュンリだった。


     左手にスプレー缶を握っている。


     先ほど落としてしまったスプレーは、投げ飛ばされた彼の方に転がっていた。


     目潰し、それがこのゾンビを唯一足止めを喰らわせる方法だったのだ。

     熊用スプレーの唐辛子を多量に浴び、ゾンビは叫び声を上げた。

     

    「このパターンは2回目なんだよ。いい加減学習しろ、バカ」

     

     


     倉庫の端、扉は目の前に迫っていた。


     目の前──。


     それでも扉は10メートルは先にある。

     


     シュンリはミオの手を握ると足を引きずりながら走り始めた。


     彼ももうスピードは出せない。


     怪我をしているし、ミオを引っ張っている。

     


    「シュンリ、私」


    「いいから走れ、アンプルもカードキーもあんたが持っているんだ」

     


     もう私は駄目だ。


     今すぐにでも足がもつれて転びそうだ。


     そうなったらもう終わりだ。

     

    「ごめん、ほんと無理です! 行きたいけどもう、足が動かないの、

     ころんじゃいそう! これ、あなたに渡すねっ。頑張ってミンさんの所に行ってね!

     ごめんねシュンリ!」

     


     ミオはシュンリの手を振り払った。


     肩に掛けていたクーラーボックスとカードを彼に突き出す。


     シュンリは眉にしわを寄せ、一緒に歩みを止めた。

     


    「行ってよ〜、お願い! 足がバカになっちゃった」


    「いや、タラップが降りてきている。あと1メートルでいい。それに、こっちにこれれば──」


     言い終わる前にシュンリの腕が伸びてきていた。


     掴んだのはクーラーボックスではなくミオの肩だった。


     そのまま引っ張られ、一緒になって床に倒れる。

     

     ドカッ、グチャッ

     


     押しつぶされたようなうめき声。


     それきりあたりは静かになった。


     いや、耳を済ましてみると、上空で何かが揺れているようなキイキイとした音が聞こえている。


     その音だけだった。


     ミオはそっと顔を上げた。


     さっきのゾンビが振り子のように揺れながら空中を行ったり来たりしている……?

     その度に床に血の雫を落として、一本の赤い筋になっていく。

     

     フックだ。

     


     ゾンビがぶら下がっているものとは少し離れた位置で、他に2つのフックが同じように揺れている。

     


    「ゾンビの……一本釣りだ。なんというか」

     


     シュンリは平然と呟くと、重なって倒れこんでいたミオをごろんと下ろした。


     ミオは倒れたはずが殆ど身体に衝撃を感じなかった事を思い出した。

     


     シュンリがこれをやった? まさか。


     何が一体どういう事か。
     身体を起こしてよく見ると、理由はすぐにわかった。


     ゾンビの眼球部分に大きなフックが突き刺さっている。


     何らかの偶然が働き、丁度ここを通り過ぎる時にコンテナを引っ掛けるための鉄製の大きなフックが


    外れてゾンビに直撃した。


     そういう事なのだろうか。

     

    「そんなラッキーあるわけ……」

     


     ミオがシュンリに問おうと思った時には、もう彼はゾンビを見ていなかった。

     怒りを滲ませたような無表情……。

       そんな面持ちでコンテナの上部にある中二階部分に彼は目を向けている。


     そこには男が居た。

     


    「ラッキーストライクってね」

     男が声を発した。

     

     

     

    続きは執筆中

    傷だらけになってきました。あと、文章にやる気ないそして、

    ミオがイライラするほどヘナヘナです

     

    要約漫画

     

    あまりにてきとうな挿絵

    次が更新されるまでここに居座ることになるだろう



    posted by 小説あらすじ |